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目の前でせせら嗤う男からの视线をまじろぎもせずに射抜き返しながら、ディルトは忌々しげに呟いた。

「っ…!」

絶対に……絶対に谛めてなるものか……!

それでもディルトは。

「おお、っと!さすがは勇者サマ、って所だなァ!あんだけの伤を受けてもここまで元気いっぱいで騒げるとはよォ!!」

「く…!」

闻こえた声に、ディルトは反射的に身构えた。

そうこの悪しき化身の魔族たちが――。

魔族……どもめ――!!

ぶるぶると震える程に力を込めた拳の中では、手首から流れ落ちた血液が汗と混じって、ねっとりと薄い皮肤を染め上げていく。

赤い血液の渗んだ手首もそのままに、ディルトが奥歯を噛み缔めて念り上げると、そこでようやく、异形の男は身体を屈めて鉄格子の内侧で这いつくばる人间の姿を覗き込んだ。

聴覚と同时に视覚に飞び込んできた情报を受け止めた瞬间、ディルトは正しく前後不覚で鉄格子に向け飞びかかっていた。

思った瞬间、力を込めた首筋には、青く太い血管が浮き立った。

鉄格子の向こう侧で、今までとは违う声色が、低くゆっくりと持ちあがったのだ。

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愤怒に燃える胸中で、ディルトが怒号と共に低い雄叫びを张り上げた、直後だった。

「へッ…!『魔王様に刃を向けた勇者』だなんて言うから、一体どんな人间かと思えば……『勇者サマ』は名前负けじゃねェのかァ?それともテメエら人间の世界では、锁に繋がれた情けねェ男を『勇者サマ』って呼ぶのかねェ?!」

必ず……必ず……!!

怒りと悔しさで煮え返りそうになる血液が身体中を巡り巡ると、ディルトの背中で开いた伤口が灼けるように热くなった。

自らの出立を歓声と声援で见送る人々の姿を脳里に描くと、ディルトは奥歯を噛み缔めながら手足をひねって、鉄枷の冷たい拘束から逃れようと跃起になった。

「そんなに憎けりゃ、さっさとその锁を引きちぎってそこから出てきてみちゃどうだァ?それで得意の剣技を使ってこの俺を真っ二つにしてみろよ!くくくくくッ!そうすりゃきっと……最高にスッキリすると思うぜえェ?」

こんな……こんな低俗な生き物に……!

う、う…!」

最前の梦の中で、真っ赤な血に濡れながら我が身を见つめる男の顔を头の片隅に思い返しながら、ディルトは必至に头を振って上下の歯列を食いしばる。

生きている――!

「く…そおお……っ!」

「く…うう……ッ!!」

口惜し気に奥歯を噛むと、睨み据えた视线の先では异形の顔がほくそ笑む。

目一杯の力を込めた歯列の隙间から、ほとんど声にならぬ程の声量で、ディルトが最爱の友人の名を嗫くように呼んだ――その时だった。

「く……そ…ッ……!」

「ぐ……っおおおお……!!」

睑の里にまざまざと苏る、凄惨极まる略夺行为の场景に、ディルトは両手の拳を握りしめながら眉根を寄せた。

狭く暗い牢狱の中で这いつくばるディルトの掌の中にあるものは、捕らわれた事で募る不甲斐なさと惨めさ、そして勇者としての责务を果たす事のできない、己に対する无力感だけなのだ。

「ジョル……ジュ…ッ!!」

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「おう、なんだ。勇者の野郎、目を覚ましたのか」

自分は……!

ディルトの咄嗟の动きと共に、牢狱内には、

どうあっても。

目の前に敌がいる……!

「魔族め……!」

「き、さまァ……!」

暗く重い空気の漂う鉄格子の向こう侧、异形の姿をした人影が、这いつくばるディルトを见下ろし蔑むように微笑していた。

「く……そ……!」

絶対に、生きているはずだ――!!

「ッ……!!」

自分の大切な国や富を……そして人や笑顔を……夺ったのだ――!

浑身の力を振り绞って身体中に力を込めると、暗い牢狱の中でディルトの锻え抜かれた肢体に浮き上がった筋肉が、汗と血液の反射を受けて、なまめかしく光った。

目の前に……!

「!!!!」

拘束具に捕らわれたままの両足を踏ん张ると、汗とは违う生温かい感触が、ゆっくりと胸元を滑り落ちていく。

「へへへ…!安心しろよ、勇者サマ。何も今すぐ取って食おうって话じゃあねェからよォ……!」

何があっても。

见下すような軽侮の声に気高いプライドを殴打されると、ディルトの体内で言叶にできぬ何かが、油を注がれたように燃え上がった。

「おーおー!なんだよ、勇者サマ!まだおねんねしてるかと思って来てみりゃあ、なんだァ、すっかり元気いっぱいでお目覚めじゃねェかァ!」

「ぐ……ッ…おおおおお…!!」

だが、それでも。

「っ!!」

「この……!」

魔族――。

だが、自らの手の中にあるのは、鋭く强い剣でも、大切な者を守る为の盾でもない。

人々から『勇者様』と呼ばれ、慕われ、そして最後の光明として愿いをかけられた自分は……!

「!!」

「き……さまあァ!!」

自分の国は、友は、幸せは……!!

「く……っ!」

「!!」

异形、とは言っても、ディルトの视线の先にある男の姿はひどく人间に近しい容姿で、二本の腕もあれば足もある、人との违いと言えば、人间には决して存在せぬ色をした皮肤と、その头部から突き出した角、そして鋭い手足の爪――。

顔を见ずとも、下卑た笑みを浮かべているのがはっきりと分かる口调で异形が告げると、ディルトの手足に繋がれた锁がジャラリと鸣って、牢狱の狭い空间に反射する。

反射的に跳ね上がったディルトの肢体が、重く顽丈な锁に引かれて激しい金属音と共に床面に冲突する姿を见下ろしながら、异形はせせら笑うように薄い口元をほころばせた。

汗にまみれた额を、湿りれた岩肌のごとき床の上へと押し付けて、呻きを上げながらも、红く染まった手首を鉄枷に向けて押し付け続けた。

「ハハッ!なんだァ?悔しそうなツラしちまって!そうかそうか!そんなに俺たち魔族が憎いか!」

自分は……自分は世界中で平和を待つ人々の为に……そして、他でもない、共に剣を取った亲友の、あいつの为に……!

全身に力を込めると、肩口の伤が开き出すのが自分で分かった。

わざとらしく蔑みながら、唇の端を吊り上げる声の主を睨みつけると、ディルトの视界には太い格子の向こうで嗤う男の顔が浮かび上がった。

ディルトが身体中の力を込めて己の手首をねじるたび、雑に仕上げられた钢鉄制の手枷の表面は、湿った肌を力强く擦り上げて、やがて柔らかな皮肤からは真っ赤な血液が渗み出す。

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